病院の窓から見える東京タワー
入院3日目の15日火曜日。家から病院に向かった。
「よーーし」と気合を入れてリポビタンを飲んだ。
「こんなときこそ、笑顔!」
今日のしまちゃんは、うっすら目を開けて、声かけをすると少しだけ反応してくれた。
時々単語で言葉を発してくれた。ただ、全ての声かけに返せるわけではなく、少し意識レベルが高いときだけ返せる状態。それでも、反応してくれたり、声を発してくれるだけでうれしかった。
夕方スーツ姿の男性と女性が訪ねて来られた。
しまちゃんが勤める企業の附属病院の方。大企業に勤める夫は社会人になってから企業内の病院でしか診察を受けたことがない。健康診断も健康相談も入社以来そこに委ねている。当然ながら、赴任のための予防接種もこの企業内の病院で受けた。予防接種後、11月9日に容態の相談に行ったのも、この病院。
診察所長と書かれた名刺の方は、白髪頭の良い人そうな、いかにも医師という方だった。どうやら11月9日に夫が診てもらい、「おそらく予防接種の副作用です」と言った人のようだ。焦りや驚きを隠せない顔をしていた。
拙いながらも、私は、病名、症状、状況を説明した。
すると、その診療所長は、
「弁膜症ということは知っていました、しかし抜歯をしたことは我々は誰も知らなかったんです。もしそれを聞いていたら、9日の時点で直ぐに病院に連れていきました」
と悲しい顔をして告げた。
9日時点でかなり頭痛があり、そんな中で親知らずを抜いたなんて話、本人からするわけがない。
あなた方の会社がご丁寧に赴任の手引きに、赴任前に“歯の治療をしておきましょう”と書いたのだろう。私はその書類を見ていた。
だったら、弁膜症としっていた産業医はなぜそのアドバイスまでしてくれなかったのだろう。
あなた弁膜症の人が抜歯をすることは大きなリスクと知っていたなら、少しの機転で阻止することができたでしょう?
と心の中では思った。その人は歯科医ではないので、勝手な言い分だとも思った。
当然ながら、申し訳なさそうにしている2人にそんなことは言えなかった。
誰が悪いわけではない。
みんなでしまちゃんが早くよくなることを祈ろう、改めてそう思った。
この日の夜も病院へ泊まった。
控室の窓から見える東京タワーは目の前で大きく輝いていた。
とてもとてもきれいだった。